青い果実の実る頃には

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映画から学ぶこと ~オレンジと太陽~

ネタばれ注意!

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2010年製作(岩波ホールをはじめ全国で順次公開中)



燦々と輝く朝の太陽の下でオレンジを捥ぎるような豊かな暮らし。そう言われてオーストラリアの大地に降り立った児童養護施設の少年少女たちの目に映った現実はどんなものだったのだろうか




最近「ルート・アイリッシュ」も公開されたイギリスを代表する巨匠ケン・ローチ監督。その息子ジム・ローチが初めてメガホンをとった作品。マーガレット・ハンスフリーズ氏原作の「からのゆりかご大英帝国の迷い子たち」をもとに映画化を果たし、19世紀から1970年まで行われていた強制児童移民の実態を明らかにしたマーガレット氏自身の奮闘を描いたヒューマンドラマだ。

あらすじ
1986年、マーガレットはイギリスのノッティンガムで社会福祉士として働いていた。自分を理解し支えてくれる夫、可愛らしい2人の子どもに恵まれ、幸せな家庭を築いていた彼女のもとに一人の女性が訪れる。オーストラリアから来たという彼女はイギリス生まれで、4歳の時に児童養護施設に預けられ、後に船でノッティンガムからオーストラリアへと送られたという衝撃の告白をする。マーガレットはそのことをきっかけに、オーストラリアとイギリスを行き来し調査を進める。そこで明らかになる事実とは・・・。


社会派映画という難しい側面を持ち合わせながら、説教くさくない本作にはだれしもが受け入れやすく、そして驚愕の事実と今も苦悩する人々に胸を打たれるだろう。
この映画で最大に称賛されるべき点は、政治映画だけどキャンペーン映画になっておらず、ハリウッド的な抜け道(事件があって、涙や笑いがあって、最後には丸く収まるような責任回避の映画)に逃げない姿勢を貫けた点にあろう。そして、それを可能にしたのが虐待による痛みと「自分は誰なのか」という叫びをテーマとしてブレずに通したことが大きい。これは大学で哲学を学び、ジャーナリスト、TVドラマの演出家を経た監督だからこそ映しだせたなのではないだろうか。
深い眼差しで物事を見つめられるジム・ローチ監督の作品を見れて良かった。今後の彼の作品に注目していきたい。

作品の感想にいく前に「児童移民トラスト」とは何かを述べておく。
イギリスからの児童の強制的輸送(児童移民)は戦後の時期には、下は3歳の児童までもがカナダ、ニュージーランド、ジンバブエ(旧ローデシア)とオーストラリアへと送られ、1970年まで続いた。人数はなんと15万人。この問題に対処したのが「児童移民」トラストである。1987年にマーガレット・ハンフリーズによって設立され、(児童移民)の問題に対処した慈善団体だ。オーストラリアとイギリス両国に登録され、カウンセリングや離散家族の再会を含む社会福祉サービスを提供している。イギリスのノッティンガム、オーストラリアのパースとメルボルンに置かれたオフィスでは、元移民と彼らの家族に情報を提供し、アドバイスやリサーチのサービス行っている。現在、マーガレット・ハンフリーズは児童移民トラストのディレクターを、夫のマーヴィン・ハンフリーズはプロジェクト査定者を務めている。
実を言うとこの問題、日本も間接的ではあるが少なからず関与している。1942年に、イギリス陸軍は日本陸軍に敗れ、シンガポールは陥落した。同年から翌年にかけて日本海軍及び陸軍はオーストラリア本土も空襲。それに危機感を強めたオーストラリアでは領土防衛のために児童移民スキームが白人入植へと結びついた。
戦後も白豪主義入植政策は続き、オーストラリアは児童移民最大の受け入れ地となっていった。

さて、ようやく2010年、本作映画の作成中に英国が「児童移民」を認め、正式に謝罪をした。真実を明らかにし、勝利を勝ち取ったのはマーガレット・ハンスフリーズというイギリスの社会福祉士。
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(右。左はジム・ローチ監督)

活動家である以前に一人の女性であり、母であるマーガレットは、児童移民の現実を見て何を思ったか。
はじめは彼女自身、数人の証言を聞いただけで小さな問題に過ぎないと思っていた。それが調査を進めていくうちに数多くの児童移民者と、とてつもなく大きな組織が絡んでくることを知る。国家レベルで犯罪を犯していたのだ。これは只事ではないと。そして、彼女はオーストラリアに長期滞在することにし、調査を進めていくことを決意する。
何も知らない幸せな人生を歩んできた者が、被害者に代わって国を訴えるという構図。なぜ、彼女はここまでしたのか。
被疑者からしてみれば実際に経験したことがない彼女は偽善者であると思われるし、秘密を暴かれる加害者からしたら目障りで排除したい人間に映る(実際に危険に脅かされることもあった)。被害者と同化して外的要因によるストレス障害に陥るまでになり、また、「自分の家庭を顧みないで他の子どものことばかり」という批判を浴びせられ、自身の家庭にも影響が出始める。
そうまでして彼女を突き動かしたモノは何だったのか。「必ず成し遂げる」という覚悟はいつ彼女の中で形成されたのだろうか。
それは彼女が社会福祉士という以前に一人の女性であり、母であったことが大きい。彼女は当時強制移民された子供たちの現状を今大人になった彼らから聞くことで、母性からどうにかしたいという思いに突き動かされたのだ。被害者たちも、彼女のことを一度信じると異様なまでに彼女を必要とした。それは心に空洞を抱えて育った彼らがどこかで母性を必要としていたからで、そこにマーガレットという「母」が舞い降りたからだ。
よく、政治問題では一人の偉大な父(指導者)と子どもたち(賛同する市民)の構図で描かれるが、本作では一人の母と子どもたちという目新しい構図になっている。だからこそ、児童移民の虐待の加害者である神父
たちが彼女を目撃した時の態度が、まるで恐怖に怯え、バツの悪い子どものような姿にしか映らなかったことにもとても興味を惹かれた。

最後に、この映画を見て学んだこと。それは、マイノリティがマジョリティの圧力に屈せずに抗い続けるにはそれ相応の覚悟と忍耐力が必要であること。声を上げて訴え、発信し続けることが人の心を動かすことに繋がるのだと思えた。
そして、起こってしまった過去は変えられない。それは児童移民だけでなく、朝鮮半島の南北分断しかり、国家によって親や兄弟と生き分かれることになった人々全てだ。被害者の心の中には一生傷が残る。では加害者である国家はどうすれば良いのか。それは一時の謝罪と賠償金では済まされない。国家も一生その罪を背負わなければならない。そして過ちを歴史に埋もれさせて消化するのではなく語り継ぐことで昇華し、二度と同じ過ちを繰り返さない教育をしていくことに尽きよう。
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by komei115 | 2012-06-01 23:48 | Movie