青い果実の実る頃には

komei115.exblog.jp

項目に分けて日々思ったこと、書きたいことを自由に書いてます。意見、批判するコメントは大歓迎です。個人的な問い合わせはこちらまで。koumeipart115@yahoo.co.jp

ブログトップ

映画から学ぶもの ~ル・アーヴルの靴みがき~

ネタばれ注意!

072.gif072.gif072.gif072.gif☆  8/10

b0215567_2164213.jpg




2011年製作(渋谷ユーロスペースをはじめ全国で順次公開中)
詳しくはhttp://www.lehavre-film.com/

アキ・カウリスマキらしくなく、アキ・カウリスマキらしい。無愛想の中にデリカシーを、幸福感の中に皮肉なユーモアを。不思議で、心がほっこり温まる群像劇



「マッチ工場の少女」「街のあかり」など、フィンランドが誇る巨匠アキ・カウリスマキ監督による新作のヒューマン・ストーリー。フランス北西部の港町ル・アーヴルを舞台に、底辺の庶民たちの生活とヨーロッパでは切っても切れない関係にある難民問題が絡み、それを物語が優しく包んでいる。これまでのカウリスマキ作品でも演じ、「白い花びら」では共演したアンドレ・ウィルムとカティ・オウティネンが、今回は仲むつまじい夫婦を好演している。カウリスマキ作品には欠かせない監督の愛犬もしっかり登場しているのにも注目したい。港町に住む人情味溢れる人々が紡ぐ一つの奇跡は、観る者の琴線にしっかりと触れよう。

あらすじ
昔パリで売れない芸術家として暮らしていたマルセルは、今は港町ル・アーヴルで靴磨きをしながら生計を立てている。彼は自分に尽くしてくれる外国人(フィンランド人)の妻と愛犬ライカとの暮らしに満足していた。だが、ある日妻が病気で入院した後、アフリカから密入国してきた難民の少年と出くわし、警察に追跡されている彼をかくまうことにする。


これまで、アキ・カウリスマキは「浮き雲」「過去のない男」「街のあかり」で敗者を描き、そこからの再生、そして人間讃歌をテーマとして内在させてきた。他にも「マッチ工場の少女」ではものすごく単調な話の中に黒いモノが漂う作品であった。
それに比べて本作はどうだろう。それはまるで、おとぎ話のような群像劇だった。誰にでも分かりやすく、テンポよく物語は進み、まるで絵本を読んでいる感覚に近い。
これまでそんなに多くのカウリスマキ作品を見てこなかったこともあり、強調して言うと恥を露呈してしまうことになるので言いきりたくないが、どこか彼らしくない印象を受けた。
しかし、始まってしまうとやはりカウリスマキ節が映画の随所に発揮されている。映像手法は長回し、引きのショットを多用し、動きが少なく、シンプルで一切の無駄がない。また、タイトルからも予想される通り足元を映す映像が多くあり、これは靴磨きを頼む富裕層の足元で必死に靴を磨く底辺の庶民の構図を予想させてくれる(他の意味もあろうが)。これは私見だが、人間の足元を映す映画はどこかリアリティがある。地に足が着いていて、どこか物語として見ていて安心させられるのだ。
そして、その手法が逆にアップのショットを際立たせてくれる。絶妙だったのが人物たちのだ。みながみな、揃って無表情。芸術的で、どのシーンも一枚の絵になる。無表情の顔では何が訴えかけてくるか。それはだ。作中の人物たちは、だれもが(悪役(悪役なんてものがこの映画に存在するかは疑問だが)含め。)目に力強さを宿し、お互い目で見てコミュニケーションができている。そして、多くを語らずとも「いいよ、いいよ」と受け入れてくれる温かさが内にこもっている。
無表情から生まれる効果は大きい。人物たちが無表情だからこそ、そこから放たれる皮肉を含んだちょっとしたユーモアなセリフ・行動が効いてくる。同時に、人物たちの芝居気のないさりげなさが前面に出ていて、これ見よがしな演出がないのも良かった。
さて、内容の方はどうだろうか。大胆に話の流れをカットし、一見不親切に感じられるものの、構図や色彩設計にはデリカシーが満ち満ちている。監督らしい優しさが滲み出た作品といえよう。
途中で、妻と移民少年とが入れ替わって主人公マルセルと生活を共にするのだが、それはシンクロしている。マルセルにとって少年を逃がすことが妻の回復に繋がると心の奥底で感じていたのかもしれない。
そして奇跡は起こる。人と繋がり、可能性を信じれる者だけが味わえる奇跡だ。人情味がありロックとブルース、そしてソウルフルなル・アーヴルの土地性も大きな意味を持とう。
「全面的に忍ばせる」とは矛盾しているが、難民問題というとても大きな政治的テーマを喜劇というおとぎ話で見事に緩和させている本作は誰にでも親しみやすい良作であるに違いない。


―追記―

少年は何故発見されたコンテナから逃げ、フランスから逃げられたか。警察にはどこか(少なくともキーパーソンの一人のモネ警視には)捕まえる意思が感じられなかった。寧ろ大事なところで敢えて逃しているかのような感覚を受ける。思うに、少年は奇跡をもたらす天使だったのかもしれない。住民も、警視も、通報者もどこか彼を待ち望んでいたのでは・・・とそれは考え過ぎか。
画家だったマルセルがなぜ、対極の位置にある靴磨きへと変わったのか。彼のセリフで「もっとも人間に近い仕事は羊飼いと靴磨き屋だ」というのがあるが、どうやら簡単には答えが出なさそうだ。
二度三度見ても、きっと意見が変わってきておもしろそうだ。
[PR]
by komei115 | 2012-06-02 23:07 | Movie