青い果実の実る頃には

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映画から学ぶもの ~おおかみこどもの雨と雪~

ネタばれ注意!

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7月21日より全国各地で公開中
詳しくはhttp://www.ookamikodomo.jp/index.html


母の「受容」と子どもの「葛藤」。子を育む。それはいつの時代であれ、どんな家庭であれ、究極に難しく、同時に簡単なことである




「時をかける少女」、「サマーウォーズ」の細田守監督が手掛けた新作アニメーション。人間の女が狼男と恋をして結婚し、出産、子育てに奮闘する年月を映し出す。前2作に続き、細田監督と共に奥寺佐渡子がタッグを組み脚本を手掛ける。キャラクターデザインは「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズの貞本義行。母と子の強い絆には勇気をもらう。

あらすじ
国立に通う19歳の大学生花は、大学で男と出会い、恋に落ちる。恋人になって愛し合うようになると、男は花に驚愕の真実を話す。それでも彼女は男を受け入れ、妊娠し、やがて雪と雨という姉弟が誕生する。彼らは、人間と狼の両方の血を引く「おおかみこども」としてこの世に生まれたのだが、そのことは誰にも知られてはならなかった。都会の一角で人目を忍びひっそりと。それでも家族四人は仲良く暮らしていたが、ある日、一家を不幸が襲うことになる。


「サマーウォーズ」や「時をかける少女」を以前TVのロードショーで見たことがある私は、今回の細田監督の新作である本作に少なからず興味を抱いていた。しかし、物語を知らなかった私は、子ども向けで従来の「狼人間」の話なのだろうと高を括り、映画館で見るほどでもないと軽視していた。すると、「深夜特急」の沢木耕太郎氏が本作の映画批評をやっているではないか!打って変ってすぐにでも見たいと思い、映画館へと足を運んだ。

さて、ボーイ・ミーツ・ガールの淡い恋物語かと思いきや、甘美なときめきが一変して決断や覚悟、厳しさを伴う人の営みへと移っていく。しかし、一見屈折し重々しくなる要因でも、まるで暗さを感じさせない。それ以上にヒロインである花のへらへらとした笑顔が穏やかな陽光として常に差し込み、そこに影が落ちることはない。どんなに辛くても笑顔を絶やさず、彼女の不思議なまでの明るさには「どうしてそんなに全てを受け入れられるの?」という疑問が湧き起こるとともに、登場人物の二面性の葛藤でこそ成り立つドラマ性の欠如を疑ってしまう。
それがたとえ物語であっても、狼人間と結婚するなんて考えられない人は多いだろう。「子どもはどうやって育てるの?」「人前で暮らしていけるの?」「生まれてくる子どもは可哀想じゃないの?無責任じゃないの?」と。少なくとも自分がその状況におかれた時に即決はできないはずだ。
しかし、ここで私は思い知らされることになる。そう考えてしまう時点で、すでに他者を認めることができず、個人や社会の偏見にのみ縛られているということを。
「オオカミ」人間というと、これまでおとぎ話として、そのドラマの中核をなすキャラクターの要素が強かった。そして「美女と野獣」や「ノートルダムの鐘」といった話のように、周囲の人間の恐怖と当人の悲壮とによって成り立つものが多かった。だが、この物語においてはそうではなかったのだ。単なるモンスターとしてではなく、ある種のメタファー(それは人間の持つコンプレックスといえる)として機能している。
人は誰しもが、少なからず異形を抱えた「狼」である。異形の他者と交わる上で、心を閉ざす要因となる屈折に、彼女は臆さないし、動じない。異なる存在をまるごと受け入れた時、初めて愛が成就するその瞬間は、リアルな対人関係を避け、他を認めず我を通し、孤立しがちな現代に生きる私たちへの大いなるアンチテーゼであった。時に不快にも感じた花の屈託のない笑顔を、私は何よりも求めていたのだ。

そして、物語は花の目線から姉弟の雨と雪の目線へと移っていくことになる。活発で明るく、素直に感情をぶつける姉の雪と、控えめで、内気な甘えん坊の雨。二人は対照的であるが、生まれたときから狼と人間の二面性を抱えて生きている。そう、この時点ですでにドラマは大きなうねりとなって展開していくのだ。成長するにつれ自我が頭をもたげ、やがて子どもたちは自身の可能性と限界に戸惑いを隠せなくなっていく。それは葛藤である。活発で人生を謳歌していた子は周りの目を気にしたおしとやかな「女の子」へと変わり、「嫌われ者の狼になんてなりたくない」とべそをかいていた子は自然の優しさと厳しさをもっと知りたいと本能に駆り立てられる「男の子」へとなった。その二人が喧嘩をするシーンはまさに二面性の葛藤の爆発でもあり、観てる者すらも困惑させる。それは母である花の目線に近い。
どうしようとオロオロする。しかし、親子ともども選択の時はやがて来るのだ。そして、花は決断する。「雨」の粒に打たれながらも「雪」の寒さに凍えながらも、それでも大地のような母性で温かく包み、家族に「花」を芽吹かせる。それが花の強さだった。母の「しっかり生きて!」という叫びと返答する子の逞しい遠吠えは心の浄化である。全てがこの一点に注がれ、このシーンに感動の血潮が一気に噴出することだろう。

映像についても話しておきたい。
アニメでしか成しえないモーションの躍動は人物たちを更に引き立てる。時にリアルを越えたあまりの映像美、空間美には感嘆の溜息が漏れてしまう。一番印象に残るのは、やはり雨と雪が雪積もる大自然の中を駆け回るシーンだ。初めての白銀の世界に興奮する子どもが精いっぱいに描かれていてなんとも開放的な気持ちにさせてくれる。
その一方、ジブリアニメにも引けを取らないほどのリアルを追求している。セックスをして、つわりが来て、吐いて、母乳を与え、育児に奮闘して、死体ではなくゴミとして処理され・・・。セリフに頼るのではなく、ちょっとした目線や仕草で伝わる感情。
家族の中だけではなく、周囲の人間たちの反応もそうだ。近所迷惑だと怒鳴りつける人間、ネグレクトを疑った児童施設の人間。都会から来たものを不信の目で見る人間。人間個人と社会の両側面の営みが実にリアルに描かれている。しかし、アニメらしからぬテーマを、あえてアニメで描くことに大きな意味があると思いたい。

本作は是非映画館で見て欲しい。子どもと一緒に、家族と一緒に、恋人と一緒に。
とことん人と交われば、傷つき苦しむことはあるだろうが、それ以上に得られる歓喜は計り知れないという思いを共有してほしい。非婚が進み、少子化が進み、愛が失われつつあるこの国で、漠然とした不安や生きづらさに打ち克ち、家庭をもつことに憧憬を抱かせる、現代に最も必要な寓話である。
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by komei115 | 2012-08-01 13:33 | Movie