青い果実の実る頃には

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映画から学ぶもの ~まあだだよ~

ネタばれ注意!
072.gif072.gif072.gif☆☆  7/10

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1993年公開(レンタル可)

「今、忘れられているとても大切なものがここにある」というより、もはや今となっては空想のおとぎ話に近いような純粋無垢な師弟の交流が描かれている。これ程まで「仰げば尊し」の歌が心に沁み入る映画は他にないのではないだろうか



世界的有名な黒澤明監督が、敬愛する随筆家・内田百閒とその門下生たちとの交流をほのぼのとしたタッチで描いたヒューマンドラマ。この作品の公開後、次回作の脚本を書き終え準備に取り掛かろうとした矢先の1998年9月6日に氏は脳卒中により逝去したため、本作が半世紀以上の監督生活を全うした氏の遺作となった。

昭和18年春。一人の教師が生徒たちに、作家活動に専念するために学校を去ることを告げる。しかし、退職後も門下生たちは先生の家に頻繁に遊びにやってくるようになる。ある日、先生の還暦の祝宴が開かれている最中、空襲がやって来る。やがて、空襲で家を焼かれた先生と奥さんは、知人の厚意で借りた三畳一間の掘建て小屋で暮らし始めるが・・・。


内田百閒の随筆を原案に、戦前から戦後にかけての百閒の日常と、彼の教師時代の教え子との交流を描いている。黒澤作品の前・中期に見られる戦闘・アクションシーン等は珍しく皆無で、終始穏やかなトーンで話は進行していく。
先生の日常とそこに遊びにやってくる門下生たちとの交流以外に無駄なことは一切ない。生徒たちがそれぞれ何をやって生活しているのか、何を考えているのか、先生以外にどんな交流があるのかは全く分からない。必ず先生のもとに集まり、酒を酌み交わし、先生の面白おかしく、それでいて思慮深い話に笑い、納得させられる。先生が困窮していれば、先生のためならばと、門下生が力を合わせて奔走し、先生の生活を手助けていく。そして、彼らは先生の健康長寿の祝いのために「摩阿陀会」なる催しを開く。なかなか死にそうにない先生に「まあだかい?」と訊ね、先生が「まあだだよ!」と応える会である。月日は経ち、17回目の「摩阿陀会」は先生の喜寿のお祝いも兼ねて盛大に開かれる。門下生たちの頭にも白いものが交り、彼らの孫まで参加するという大規模なものになる。
何とも優しい門下生たちではないか。普通、そんなに生徒に敬愛される先生はさぞ素晴らしい先生なのだろうとなる。実際に、内田百閒は多くの門下生から敬愛されていたらしく、映画の中でも愛される理由が随所に見られる。人柄が良く、純粋で子どものようでもある。来るもの拒まずの精神で、世の中を見る目は鋭い。確かに、こんな先生いたらいいよなと思うが、私はそれ以上に門下生たちのいつまでも変わらずに師を尊敬していられる純粋さと忠実さに敬服してしまう。私にも敬愛する師はいるが、頻繁に家に遊びに行くことはないし、卒業してからもずっと合い続けられるか、自分の都合を削ってでも真っ先に会いに行けるかといったらかなり厳しい。
物語のラストで、門下生たちの歌う『仰げば尊し』の歌を背に先生は退場し、その夜付き添った門下生たちが控える部屋の奥で、先生はおだやかに眠る。夢の中、かくれんぼをしている少年は、友達に何度も「まあだだよ!」と叫ぶ。少年が見上げた夕焼けの空が、やがて深く彩られ、夜になっていく。何とも幻想的で美しい映像とともに映画は終わる。
じんわりと心に残る映画である。今の日本の風景にこのようなものがあるかと聞かれれば怪しいが(寧ろ昔の光景に疑いを隠せない)、敬愛する師を大切に想い続ける気持ちをいつまでも持ち続けたくなるのは確かだ。
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by komei115 | 2012-08-08 18:44 | Movie