青い果実の実る頃には

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小説に魅せられて ~ 葡萄の生る季節には 六

 「遅い。もう待てません」
 「えーっ、ちょっと」
 そう言って幸恵の方を見ると、先程の複雑そうな顔から一転、面白い悪戯を企てた子どものような無邪気な笑顔で幹斗を見つめていた。
 「許してあげてもいいよ」
 「本当?」
 「うん。でも答えられなかった罰としてこれから私が仕事休みの時はお付き合いよろしくお願いしますね。ミ・キ・ト・さん」
 「あっ…、うん。ごめん…ってあれ?」
 「ほんと6年前と何も変わってない」
 幸恵はクックッと手で口元を隠しながら、こみ上げる笑いに堪える。その顔は幸せそうだった。
 幹斗もつられて笑う。幸恵の笑顔をこうしていつまでも見続けたいと思った。そして、少し早くなってしまうが今こそ言うべきだと意を決し、気持ちを切り替えて立ち止まった。
 「どうしたの?」
 「あのさ…」
 「何?」
 幸恵が幹斗と向き合うかたちで立ち止まる。あの時と同じ。淡い桜色に染まった世界が広がっていく。
 「…幸恵さん。俺は今小説家を目指して頑張ってるんだけど、でもまだ良い結果が出てなくて、でも幸恵さんが応援するって言ってくれて…えっと、その…それでもし有名な小説家になったら…色んな所に君を連れて行きたいというか…こんな事今の俺が言うのも何なんだけど…あの…」
意気込んで話しだしたものの、途中から何が言いたいのかわからなくなって来る。恥ずかしさと前持って準備しておけばよかったという後悔に駆られたが、目の前にいる幸恵は決して笑わず、幹斗をみつめてくれていた 。
 「幹斗君が言いたい事はわかった。今後の話でしょ?幹斗君はどうしたいと思っているの?」
 「 えっと…」
 「私…幹斗君が言ってくれるの待ってるよ」
 「…。幸恵さん、僕は貴方と結婚したいです。プロポーズする資格を得るまで待っていてもらえませんか?」
 「…はい」
少しはにかんだ顔で、幸恵は小さく肯いた。 話し終わると呆気ないもので、あまり実感が湧かなかった。
「行こう」
 その後の沈黙に耐えられなくなった幹斗はポケットに手を入れたまま、足早に歩きだした。その顔は恥ずかしさのあまり紅潮している。
 幸恵は耳まで真っ赤に染めて猫背気味に歩く彼の後ろ姿をしばらく微笑ましく見つめた後、その後ろを追いかけた。
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by komei115 | 2011-12-21 23:43