青い果実の実る頃には

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読書から学ぶもの ~共喰い~

ネタばれあり!

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乾き、淀んだ川辺の町。逃れられない血と性。それぞれに翻弄される主人公を、重く、濃い物語とは対照的な繊細・果敢無げな美しい文体で見事に描ききった鮮烈な作品。



ネットで注文しようとしたが、再入荷まで待てとのことで、待ってみたもののなかなか連絡が来ず、我慢できなくなった私は昨日ダメもとで本屋に駆け込んだ。
すると、普通に店頭に並べられているではないか。いつまでも待ち続けた私がバカみたいだった。早速買って帰り、家に着くなり一気に読んだ。

性交の際に女性を殴り、首を絞めることで快感を得、自身の欲望を満たす。そんな、女性を男根を受け入れる穴の開いた肉の塊、あるいは玩具にしか思っていない父親を持つ17歳の青年が物語の主人公である。父を、近くで別居している母を、現在一緒に暮らしている父の女を馬鹿だと思う一方で、自分にも父の血が、遺伝子が通っていることを思い知らされる。彼女との性交を通して肉を嬲り、破壊したくなる秘めた欲望と渇きに飢えている目をした自分がいた。そういった汚い感情を持つ自分に、川辺を中心に汚く淀んだ空気が漂う乾いた町がさらに追い打ちをかけるように逃れようのない現状を突き付ける。
父親のようになりたくない自分と、実際になっていく自分。現状を打破できない弱い自分。
葛藤の末に、彼がとった行動とは・・・。

サディスティックな感情。それは私を含めた男性の大半の(あるいは女性にも)深層心理に大なり小なり存在している。現に女性の凌辱被害は今でも後を絶たない。
エロスとタナトスが自分だけでなく、相手という対象にも向けられ、複雑に絡み合う性事情。それは人間なら避けて通れない、人に知られたくない欲望でもある。今、雑誌の特集や書籍で「○○が教える最高に気持ちが良いセックス」などといった文句が目立つ。性に対してオープンな社会になってきたのだろうか、しかし、そのようなハウツー本が出回る中、DVやレイプなどは事件としてだけ処理され、私たちとは一線を隔した犯罪として取り扱われているように思う。あってはならないことだからこそ、正面から向き合うべきではないか。
その点で、性の欲望に悩む青年の幼さと葛藤を赤裸々に描きだした、田中慎弥氏の視点は鋭く、それをあえて繊細な文体で、様々な隠喩を含ませながら紡ぐ表現は見事としか言いようがない。周りを取り巻く人物や、川辺の町の細々とした情景も氏の丁寧な文体によって切り取られ、描写されている。洞察力が並ではない。
短編ながらに密度が濃く、徐々に加速していく物語の流れは、文中の川辺の水嵩、流れの変化と同じでさらに惹きつけられた。
大変満足のいく作品だった。さすがは芥川賞を受賞した作品である。
思わず、二度読んでしまった。
もう一遍の「第三紀層の魚」の方はまだ手をつけていない。これから楽しんで読みたいと思う。
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by komei115 | 2012-02-04 19:57 | Reading&Music